民話の語り部/山田美由紀さん
山田美由紀さんは、美山生まれ美山育ち、ご結婚後も美山に暮らし続けている生粋の美山人。
現在、山県市合併前の旧美山町時代に刊行された『美山の民話』を基に地域を巡る民話ツアーガイドとしてご活躍されている山田さんに、お話を伺いました。
追ヶ谷で生まれ育つ
山田さんのご実家は、北山地区にある大きな釣り堀を備えた川魚料理店「追ヶ谷」。
2014年にのれんを下ろしてしまいましたが、ニジマスやイワナ、アマゴなど、とれたての新鮮な川魚料理が楽しめる場所として、かつて夏の間は店舗に入りきらず母屋にも案内していたというほど大勢のお客さんで賑わっていました。
山田さんも小学生の頃から接客などを手伝い、大学生のときには夏休み中にお父さんについて遠方へ早朝からの仕入れにも行っていたそうです。
当時のご自身のことを、「引っ込み思案で、気が弱かった」と話す山田さん。
「小学校の頃お店を手伝っていたときに、お客さんに何か聞かれたけどすぐに答えれなくて母屋に逃げちゃって。反省して『あれはこうやって言えばよかったな』って紙に書いて、お店に戻ってそのお客さんを探したけど、もう帰っちゃったあとで。それくらい人前で話すのは苦手だった」
しかしその後、高校やお子さんの保護者会に至るまで、会長や委員長を任されることが多く、人前で話す機会も増えたそう。
「そういうの全部嫌々やっとったけど、今となってはいい経験だったなって思う」と振り返ります。
追ヶ谷がつないだ縁
そんな山田さんが民話ツアーガイドを務めることになったきっかけは、2013年に遡ります。
当時岐阜大学の研究室で古文書の整理のお手伝いをしていた山田さんは、同僚から「これ、facebookに載ってるのって山田さんの実家じゃない?」と教えられたそう。
それはその年刊行の『やまがた旅手帖』というフリーマガジンに、追ヶ谷が掲載されたときの投稿でした。
実家への愛着が強かった山田さんは、facebookを通じ、のちに「やまがたフットパス実行委員会」の立上人となるその投稿者とコミュニケーションを取り合うことに。
それから2年後、やまがたフットパス実行委員会主催で「民話ツアー」と「もののけツアー」が開催されることになったとき、民話の舞台のひとつである追ヶ谷のことをよく知る山田さんは、「案内人になってほしい」と依頼されたのでした。
「そのお話をもらうまでは、『美山の民話』という本があることや追ヶ谷にまつわる話は知っていたけど、そこまで興味はもってなかったし、それを使って何かするとは思ってもいなかった」という山田さん。
「ただ、追ヶ谷に関しては、両親ふたりでやってるしいずれなくなっちゃうんだろうから、お店を継ぎたいって何回も思ってた。でも現実的には厳しいし、両親からも反対されてて。それがずっと心残りだったから、こういうかたちで地元のために何かできるのは嬉しかった」
お話を受けてから、現場の下見はもちろん、民話や妖怪にまつわる資料や大正時代の『山縣郡志』を読んだり、関係する地名を調べたりと、「とにかく話せる材料をたくさん増やした」といいます。
民話の世界へ
そして2015年11月上旬、記念すべき初の民話ツアーを開催。
同年の長良川おんぱくのガイドブックに大きく取り上げられたこともあり、20名の定員に対し満員で実施に至りました。
「人を案内するなんて初めてだったから、やる前は不安と緊張でいっぱいだった」という山田さん。
実際に参加者を前に案内し始めると、それを全く感じさせないほど話に惹き込んでいきました。
随所で民話を朗読したり、その場所にまつわるお話を入れながら、北山地区を下から約5km歩きましたが、参加者の方から「もっと歩きたい!」という声があがるほど気持ちのいい散策となったそうです。
山田さんご自身も、「参加者の方に喜んでもらえてよかった」と感じると同時に、「これからもっともっとやりたい」という気持ちが芽生えたといいます。
さらに11月下旬には、岐阜県主催「清流の国ぎふ もののけツーリズム」のひとつとして、「鬼の寝床を探す冒険ツアー」を開催。
2016年には、長良川おんぱくイベント「作家・山口敏太郎と行く長良川妖怪めぐり」の地元案内人も務めました。
当初は興味がなかったという民話や伝説も、調べ始めるとどっぷりハマってしまい、妖怪や民俗信仰に関する書籍を持ち歩くほどに。
すでに成人を迎えている娘さんや息子さんにも、「お母さん、最近楽しそうやね」と言われるようになったとか。
「この民話ツアーがきっかけに、自分の道が開けた気がする。人と話すのが苦手ながらにがんばった接客の経験も、全部ここにつながってたんだなって思う」と笑顔で話してくれました。
受け継がれる思い
そもそも昭和54年に『美山の民話』が刊行されたのは、実は山田さんの義父(ご主人のお父さん)である山田務さんの一声がきっかけだったといいます。
「『美山にも、こんな本ができんかね。ずっと前に、中学校で伝説を集めて、本にまとめたと聞いとるが……。』西武芸中洞の山田 務さんが教育課へ来られて、どこかの町の民話を集録した豆本版を、ポケットから出された。これが、この『美山の民話 第一集』刊行のきっかけでした。」
(『美山の民話 第一集』あとがきより引用)
「お義父さんは、考えがすごい先進的な人やった」と振り返る山田さん。
まだ直売所や朝市という言葉もなかった頃に、地元の特産品や野菜を集めて「路草島専科(みちくさしませんか)」という販売所をつくったり、今も美山の小学生たちが習っている「山務太鼓」を始めたのも務さんでした。
故郷に何か残そうと尽力されていた務さん。
『美山の民話』も、そのひとつだったのでしょう。
その本が約25年の時を超えて、ご家族の手によって「民話ツアー」というかたちで地域の魅力として生かされていることも、不思議なご縁かもしれません。
また、民話ツアーを開催するにあたって、山田さんのご家族の手助けもあったといいます。
『美山の民話』からツアーで朗読するお話を抜粋して自作の冊子にまとめる際、挿絵を描いてくれたのが芸術大学に通う息子さんでした。
「今でも民話ですごいことができるとは思ってないけど、美山に来てくれる人がただ『川がきれいでいいところだね』で終わるんじゃなくて、『実はここにはこういうお話があったんだよ』『河童や鬼がいたんだよ』って聞くとまた違った見方ができるんじゃないかと思って。美山にこれだけの民話が残っているのにも何か理由や意味があると思うし。民話がこの地域を知るひとつのきっかけになったらいいな」と話す山田さん。
「美山は私にとって、安らげる場所。外から訪れる人や将来の子供たちにとっても、この地域が心まで休めるような場所であったらいいな」
山田さんを支えているご家族にはもちろん、民話ツアーで山田さんの人柄に触れた人たちにも、その思いは伝わっているはず。
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